4. スキーマ

スキーマは子供同士の単一化の位置を指定し、親の素性構造の選択素性の形を決定する素性構造です。CFGにおいては、書き換え規則にあたります。つまり、
スキーマの大雑把な図
という形をしていて、親と子供の関係が記述されます。具体的には、
親の素性構造が以下のようなスキーマになっていて、DTRSに補語と主辞の素性構造が記述され、
素性構造で表現されたスキーマ
というような形になります。これはHead-Subject Schemaと呼ばれるスキーマで、英語において、動詞句(主辞句)が主語を下位範疇化して親になるというスキーマです。ここで重要なのは主辞句(□2)のVAL|SUBJのリストの要素は一つしかない、ということ、および親のSUBJの値は空のリストになるということです。また、COMPSが空であるというのも重要なのですが、これは文法を書いているうちにわかってくるでしょう。ボトムアップにパーズすると考えるならば、親をつくるために、ある左側の子供と右側の子供ができていたとして、 子供の情報が親に何も伝わっていないと思うかもしれませんが、実際そのとおりで、ここでは「このスキーマを適用する条件を満たす子供の選択」をしているということ、「親の選択素性の形を決定している」ということだけが重要であって、他の情報は次章以降で説明されるプリンシプルによって伝播されていきます。実際にhe runsという文をスキーマだけを用いてパーズしてみましょう。 まず、以下のようにふたつの単語 (□5□6) が与えられます。
he と runs の素性構造
上の単語と下の単語をDTRSの下に格納するような素性構造とスキーマを単一化させてみましょう。
DTRSを格納する素性構造とスキーマの単一化
すると次のような結果になります。見てわかるようにこれが親の素性構造になります。
he runs の親の素性構造
ここで、□2 のHEADの四角い枠で囲んだ部分に注目してみてください。CASE nomという情報が増えています(heという単語には特にCASEの値は定まっていなかった。つまり、ボトムがはいっていた。)。これは主辞であるrunsのSUBJに書かれていた情報なのですが、単一化することにより、お互いの情報が一体化して、同一の素性構造をさすようになります。

また、その二重枠の部分 (□4)ですが、これはheにもrunsにも書かれているため、お互い単一化可能かどうかのチェックになります。たとえば、heのかわりにtheyだったりしたら、NUMの値はplu(複数)になるので、単一化できません。つまり、they runsというのは非文である(人間が判断して文法的にみえない文のことを非文という)ということがチェックされているわけです。このように主語、動詞句でくっつく場合のスキーマの他、動詞と補語がくっついて動詞句をつくるスキーマとか、関係詞とくっつくスキーマとかいろいろあります。

ちなみにLiLFeSで書くなら、次のような感じになるでしょう。

head_subject_schema($LEFT,$RIGHT,$HEAD,$SUBJ,$MOTHER) :-
        $MOTHER = (SYNSEM\LOCAL\CAT\VAL\(SUBJ\ [],
                                         COMPS\ [],
                                         SPR\ $Z),
                   DTRS\(HEAD_DTR\ $HEAD,
                   SUBJ_DTR\ $SUBJ)),
        $HEAD = (SYNSEM\LOCAL\CAT\VAL\(SUBJ\ [$SUBJ],
                                       COMPS\ [],
                                       SPR\ $Z)),
        $LEFT = $SUBJ,
        $RIGHT = $HEAD.
ボトムアップにパーズすると考えるならば$LEFTが左側の子供としての入力になり、$RIGHTが右側の子供としての入力となり、$MOTHERが親としての出力と考えればいいでしょう。
HPSG入門

3. 選択素性

5. プリンシプル


HPSG入門

二宮 崇 & 坂尾 要祐